肌寒さのせいで、夢の中から意識が現実へと引き戻されて、でもまだ起きたくなくて寝返りを打つ。隣にいる嵐に抱き着こうと思って右手を伸ばしたのに、ベッドの端を掴んだだけだった。あれ? 居ない? そっと目を開けると、やっぱりそこにはシーツしかなかった。起き上ってあたりを見回す。部屋はまだ薄暗い。2時か3時といったところだろうか。
コト、と音がした方に目を凝らせば、立っている嵐がぼんやりと見えた。ボクサー1枚で後は裸だ。見てるほうが寒くて、思わず布団を引き寄せた。あ、私も服着てない。どうりで寒いわけだ。嵐という湯たんぽを失って、きっと堪えきれずに目が覚めてしまったんだろう。
「悪ぃ、起こしたか?」
「ううん」
「喉、乾いてねぇ?」
どうやら喉が渇いて起きたらしく、手に持っているペットボトルは半分ほど減っていた。
「うん、私も欲しいな」
「ん」
ベッドに腰掛けながら、嵐は呑みかけのペットボトルを差し出した。受け取る前に端によって、彼の寝るスペースを作る。
「さんきゅ」
やっぱりあったかい。嵐の温もりだ。体と一緒に気持ちまでホコホコしてくる、嵐の温もり。
「ほら」
手元に渡されたペットボトルを、やんわりと押し戻した。怪訝そうな顔をした嵐の頬に、ちゅっと軽く口づける。
「嵐が飲ませて」
「………オマエさ、急に甘えたになるよな」
「ダメ?」
「ダメじゃねーよ。けど、ちょっと……」
心臓に悪ぃ。
呟いて、嵐が一口水を含んだ。すぐ貰えるのかと思ってすり寄ったのに、嵐はごくんと飲んでしまった。
「そんな顔すんなよ。ちゃんとやるって」
「だって」
「……慣れてねーからうまく出来るか自信ねーや」
「零れてもいいよ?」
「ダメだ。風邪ひいちまう」
「嵐と居るとあったかいから大丈夫」
「お前……。まぁいいや」
ふー、とため息をついた後、嵐がまたペットボトルに口を付けた。肩に手を置かれて、口開けろ、と目で合図が来る。おとなしく彼と唇を合わせると、とぷ、と冷たい水が流れ込んできた。うわ、ひやっこい。飲み下せば、こくんと喉が鳴った。冷たいけど、おいしい。急に喉が渇いていることを実感した。
「飲めたか?」
「もうひとくち」
「しょうがねー奴」
嵐の唇は熱いのに、流れ込んでくる水は冷たい。それが気持ちよくて、強く唇を押し付けた。どちらのものかわからない、零れた水は鎖骨を滑っていった。含んだ水を半分飲んだところで、肩を叩かれる。
「俺にもくれ」
瞳で弧を作って、再び嵐に口づけた。もらった水を半分かえす。
「お前の唇、熱ぃ」
「ふふ、私も同じこと思った」
「でも水は冷てぇ。なんでだ?」
「不思議だね」
「……悪ぃ、やっぱ濡らしちまったな」
「いいよ」
ちゅ、と啄むように口づける。お返しのキスは軽いものじゃなくて、ぬるい舌が口内を荒らした。応えていると、いつの間にかに嵐の肩から天井が見えた。左手が嵐の手に誘導されて、熱に触れる。加減しながら力を加えると、嵐が切なげな声を出した。
「する?」
「お前は、大丈夫なんか?」
「ん」
濡れたとこも渇いちゃうね、と笑えば、じゃあ汗かかせてやる、と悪い顔で応酬がきた。もう、こんなことなら、もう一口くらいお水をもらっておけばよかったかな。
真夜中の口づけ