わわわ、と顔を赤くして、美奈子が胸元を抑えた。
「? どうした?」
「ど、どうしたって、」
 さっきっから一枚脱がすたびに「わ」だか「わわ」だか言って、ちっとも前に進まない。俺が触りたいのは、おまえの服じゃなくておまえ自身なんだけど。下着とか、普通に邪魔だ。さっさと脱げ。
 小さくため息を漏らせば、顔を真っ赤にして「ひどい」と頬を膨らませた。ひどいのはどっちだよ、我慢してる身にもなれよ。さすがに言えずに唇を尖らした。
「だって脱がなきゃ出来ねーじゃん」
「そ、そうだよ。ぬ、脱ぐんだよね?」
「おまえどもりすぎ。俺なんかもう下着一枚だっつーの」
「そりゃ不二、」
 言いかけた俺の名字に睨みをきかせる。慌てたように、胸元を抑えたまま、また「わわわ」と言った。
「あら、あらし、くん、は、恥ずかしくないのかもしれないけど、」
「だってこんなもん、バイトのときのカッコとかわんねーじゃん」
 お前もまだそうだろ、と言ったら「全然違うよ!」なんて、今度は俺が睨まれた。何が違うのか俺にはサッパリわからない。
 さっき手にかけたのは、キャミソールとかいう薄い肌着だ。肩紐に手をかけたところでストップと言われてしまった。
「水着になるってのと同じだと思えばいーんじゃねーの?」
「違うってば! そ、それに、脱ぐんだったら、その」
「なんだよ」
「肩紐ずらしちゃったら、脱げないってゆうか」
「そうなのか?」
「そうだよ! おなかのところで止まっちゃう! 上から脱がなきゃ…」
「んじゃ腕あげろ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
 こんな感じで、下着の留め金を外すのにも、ほかの何をするにも時間がかかってしょうがなかった。かと言って美奈子から脱ぐのを待ってたら、それこそ夜が明けちまう。お互い初めてだったから、遠慮とかそういうのはなかったと思うけど、それはそれで試行錯誤の連続だった。
 大変じゃなかったと言えば嘘になる。
 けれど、隣でくったりとして眠るコイツの顔見てたらもうなんでもいーやって思えるんだ。
 口の中に髪が入ってたから、そっとどかしてやる。髪は汗のせいで少し湿っていた。耳にかけてやったところで、美奈子の瞼が震えた。
「悪ぃ。起こしちまったか?」
「……ごめん、嵐くん」
「何で謝るんだよ」
「だって、最後まで付き合えなかった、よね?」
 眉を下げて力なく言うから、俺は頭をそっと撫でてやった。
「おまえが俺の体力に付き合えるほうが不思議だっつーの」
「でも……」
「いいよ。気にすんな」
「つぎはがんばる」
 唇を尖らせて、腕を俺に回してきた。それをしっかりと受け止める。
「期待してる」
 美奈子の身体が小刻みに揺れたのが伝わってきた。ちゅ、と首筋にキスをする。また美奈子の身体が小刻みに揺れた。
「くすぐったいんか?」
「ちょっと」
「そっか」
 もう寝ろ、と頭をぽんと叩くと、「はーい」なんて間延びした返事を寄越してきた。
「返事は短く1回」
「ふふ、はい」
 ちゅ、と今度は俺の胸んところに、やわらかな感触。そして、次第に深まる、穏やかな寝息。
 もう、なんでもいーやって思える。
 同時に、なにがなんでもコイツを手放したくないと思った。
 俺の、俺たちの物語は、まだまだ始まったばかりなんだ。
NeverEndingStory