「……うん、うん。ふふっ、分かったよ。でも、そろそろ寝なくちゃダメ。大丈夫、またすぐ会えるから。……うん。良い夢を」
(……長い電話だなぁ)
 体育座りをした椅子の上で、自分の裸足の親指をいじりながら思った。
 とろけるような甘い声。
 電話の相手が誉先輩の妹さんだなんて、知らされてなきゃわかるはずもないほどの柔らかさ。
 恋人になった今でさえ、たまに首を傾げてしまうのだ。
 妹さんっていうのは嘘で浮気なんじゃないの?
 なんてふうに先輩を疑ってるわけではなくて、先輩の愛の秤を信じきれないのだ。わたしよりずっとずっと、小さな妹さんを慈しむ気持ちのほうが大きいんじゃないかって不安がつきまとって離れない。
 家族と自分を比べること自体が違ってるって、わかってはいるんだけど。
「……月子さん? ごめんね。君がせっかく来てくれてるのに電話なんて」
 パチンと携帯を閉じた先輩は、申し訳なさそうに眉を下げて言った。そんなふうに言われると、自分の心が狭いことを認めざるを得なくて。ゆるゆると首を左右に振った。
「妹さん、元気そうでした?」
「うん。はやく会いたいって駄々ばかりこねてるよ」
「……そうですか」
 ヨカッタデスネ、と口から出かかった嫌味を無理やり封じ込めて、私はまた足の親指をいじる。
(これじゃ拗ねてるコドモじゃない)
 それでも体を縮こまらせていないと、この渦巻く感情を抑えることができそうになかった。
「月子さん? 丸まってしまってどうしたの?」
 電話中、先輩は私のこと忘れてるみたいで。
 寂しくて、構ってほしくて、縮めた体。
(なんていうか、やっぱり、私ばっかりが好きなんだよねぇ……)
 ふう、と息をつくと、先輩の顔がにゅっと下から覗き込んできた。
「!?」
 後ろに飛び退きそうになったけど、椅子は先輩の手で固定されていて動かない。
「ねえ、どうかした? 何かあるなら言って欲しい」
 小首を傾げた先輩に、息がうっと詰まる。
(妹さんにやきもちやきました、なんて言えない……)
「なん…っ、なんでもない、です……」
「ほんとうに?」
「ほ、ほんとに!」
「……そっか。残念」
「え……?」
 おでこに誉先輩の手が触れた。前髪をくしゃりと後ろに流される。
「君が妹にやきもち妬いてくれたのならすごく嬉しかったのにと思ったんだ。でも違ったみたいだね」
 絶対、先輩は絶対わたしが縮こまってた理由、ちゃんと分かってて。
 私がそれを隠していることもわかってて。
 そのうえで、こんな寂しそうな顔でこんなこと言うんだ。
(………ずるい) 
 なんだか無性に悔しくなった。
 なんだか無性に悔しくなった。
「……先輩」
「誉、って君には呼んでほしいな」
「誉先輩……っ」
「……ん?」
 髪を撫でる手つきが優しい。
(この手は、わたしだけのもの)
「先輩は、私だけの先輩ですよね?」
「………そうだよ? もちろん、君も僕だけのものだからね」
 余裕の笑みを作った口元に、私は自分の唇を押し付けた。
「……ん」
 離れようとすると、優しかった手が急に力強くなった。
「ほま、」
「まだダメ」
「っふ……っ、ん、」
 呼吸をしようと小さく口を開けたのが間違いだった。すかさず先輩の舌が侵入してくる。
 くすぐるように歯列をなぞる。ゆっくりとした動きは焦らすようで。
 堪えきれずに自分から絡めると、先輩の手が良い子良い子するみたいに頭を撫でた。
「……好きだよ、月子さん」
「私も、」
「ちゃんと言わなきゃわからないよ?」
「………私も誉先輩が、好き」
 肩からゆっくりと手が首筋に移動する。ブラウスのボタンがパツンと片手で外されてしまった。大きな手が胸元に触れる。
「待っ、」
「ごめんね。待てない」
「んゃっ…っ」
 耳たぶを噛まれて出た声に、先輩は笑みを深くした。 
「可愛い」
「ふ……ぅっ」
「こうして触れたいって思うのは君だけだよ」
 下着の中に入ってきた手が、優しく胸を覆う。
「だからやきもちなんて妬かなくていいの。……嬉しかったけどね」
「ほんと、に」
「ん?」
 強弱を付けていた動きを止めて、先輩が私の目をまっすぐ見つめた。
「ほんとに、ちゃんと、好き……?」
「ちゃんと好き。当たり前じゃないか」 
 ふわりと笑って、今度は先輩から唇が重なった。
「月子さんを愛してる」
(………ずるい)
 悔しくてもなんでも、この人にはきっと一生敵わないんだろう。
090807 What mean your Love for Me ?














砂吐きバンザイ(^_^)/