高い位置で結ばれた綺麗な黒髪が揺れる。
あそこをいくのは愛しい愛しい千鶴ちゃんじゃねえかっ。
彼女を視認した途端、俺は大股(+小走り)で近づいていった。歩く彼女にはすぐ追いついた。速度の違いは歩幅の差だと思うと、男と女で違うのは当たり前なんだが、妙に胸にクるものがあった。今日はいつもにましてゆっくりな気もしたが。
その理由は声をかける前にわかった。彼女の小さな両手いっぱいにあったのは
「なんだあ!?その大量のどんぐりは!」
そう、どんぐりだった。大漁もいいところで、今にもその手から零れ落ちそうだ。
「あ、永倉さん。お稽古は終わったんですか?」
ふわりと微笑まれて、俺の頬はだらしなくゆるんだ。稽古って知っててくれたことに微妙に期待を乗せる。どうでもいい奴の行動なんてわかんねーもんだろ。
「おう。まあな。総司が臥せってて居ねえから俺も面白くなくてよ。左之たちに後任せて俺は帰ってきちまった」
がははと笑ってやると彼女もくすりと笑った。
かあーっ!可愛いなあ!!畜生っ!
「んで、千鶴ちゃん。その両手いっぱいのどんぐりは一体なんなんだ?」
「ああ、これですか?これは、その沖田さんへの届け物なんです」
「総司?どういうことだ?」
意味がよくわからなくて聞き返す。総司とどんぐり? 繋がらねぇ……。
「沖田さん、永倉さんが仰ったとおり今臥せってしまっているでしょう?それでも、秋が見たいって言うんです。沖田さんの部屋からは秋を彩る木々は見えないので」
だから、どんぐり。
千鶴ちゃんは、目を細めてやさしく笑った。
その笑顔が、誰よりも何よりも、愛しい、はずなのに。
俺の鼓動は一瞬跳ねたあと、何故だかズキズキとした痛みを刻み始めた。
こいつぁ、もしか、しなくても。
「永倉さん?」
黙りこんだ俺を不思議に思ったのだろう。彼女は尋ねるように見上げてきた。
「あ、あぁ。それにしても千鶴ちゃん手、小せぇな。俺がよ、その、代わりに持ってってやるぜ?ほら、こぼしちまうだろ?」
すこしだけ邪な気持ちをまぜて両手を差し出しす。
彼女は広げた俺の手をマジマジと見て、
「本当に大きな手ですね」と呟いた。
「まあな。千鶴ちゃんぐらいちまっこい手だったら、色んなモン落っことしちまいそうだな」
がははと笑ったけれど、彼女は少し俯いてしまった。
「本当に………そうですね」
やっちまった、と思う前に、彼女は顔をあげた。その眼に悲観の色はない。むしろ、
「でも、私にとって大事なものを掴んでいられたら良いんです。この手のひらに乗ってくれる分だけで十分なんです」
手のひらいっぱいのどんぐりを見て満足そうに言ってのけた。
愛しくて、大好きで、いつまでも見ていたいと願うような笑顔で。
「あ、そろそろ行かないと……。遅いって沖田さん、拗ねちゃうから」
言葉とは裏腹にふふふと彼女は微笑んだ。
失礼します、と言って総司のもとへと向かう彼女の後ろ姿を俺はただ見送るしかできなかった。
しょうがない。あんな顔見ちゃ、いくら鈍い俺でも『お前の持てねー分は俺が持ってやるよ』なんて言えねえやな。
頭をかきながら視線を下に下げると、ひとつのどんぐりが目に入った。きっと彼女が落としていったのだろう。
おこぼれでもいいから貰っておこうかと、かかんで拾ったそれを、思い直して彼女が向かった方向とは正反対のところに向かって思いっきり投げた。
彼女が幸せそうに笑っているなら俺の出る幕はない。
投げたどんぐりは、平助の頭にあたったとかいないとか。
あそこをいくのは愛しい愛しい千鶴ちゃんじゃねえかっ。
彼女を視認した途端、俺は大股(+小走り)で近づいていった。歩く彼女にはすぐ追いついた。速度の違いは歩幅の差だと思うと、男と女で違うのは当たり前なんだが、妙に胸にクるものがあった。今日はいつもにましてゆっくりな気もしたが。
その理由は声をかける前にわかった。彼女の小さな両手いっぱいにあったのは
「なんだあ!?その大量のどんぐりは!」
そう、どんぐりだった。大漁もいいところで、今にもその手から零れ落ちそうだ。
「あ、永倉さん。お稽古は終わったんですか?」
ふわりと微笑まれて、俺の頬はだらしなくゆるんだ。稽古って知っててくれたことに微妙に期待を乗せる。どうでもいい奴の行動なんてわかんねーもんだろ。
「おう。まあな。総司が臥せってて居ねえから俺も面白くなくてよ。左之たちに後任せて俺は帰ってきちまった」
がははと笑ってやると彼女もくすりと笑った。
かあーっ!可愛いなあ!!畜生っ!
「んで、千鶴ちゃん。その両手いっぱいのどんぐりは一体なんなんだ?」
「ああ、これですか?これは、その沖田さんへの届け物なんです」
「総司?どういうことだ?」
意味がよくわからなくて聞き返す。総司とどんぐり? 繋がらねぇ……。
「沖田さん、永倉さんが仰ったとおり今臥せってしまっているでしょう?それでも、秋が見たいって言うんです。沖田さんの部屋からは秋を彩る木々は見えないので」
だから、どんぐり。
千鶴ちゃんは、目を細めてやさしく笑った。
その笑顔が、誰よりも何よりも、愛しい、はずなのに。
俺の鼓動は一瞬跳ねたあと、何故だかズキズキとした痛みを刻み始めた。
こいつぁ、もしか、しなくても。
「永倉さん?」
黙りこんだ俺を不思議に思ったのだろう。彼女は尋ねるように見上げてきた。
「あ、あぁ。それにしても千鶴ちゃん手、小せぇな。俺がよ、その、代わりに持ってってやるぜ?ほら、こぼしちまうだろ?」
すこしだけ邪な気持ちをまぜて両手を差し出しす。
彼女は広げた俺の手をマジマジと見て、
「本当に大きな手ですね」と呟いた。
「まあな。千鶴ちゃんぐらいちまっこい手だったら、色んなモン落っことしちまいそうだな」
がははと笑ったけれど、彼女は少し俯いてしまった。
「本当に………そうですね」
やっちまった、と思う前に、彼女は顔をあげた。その眼に悲観の色はない。むしろ、
「でも、私にとって大事なものを掴んでいられたら良いんです。この手のひらに乗ってくれる分だけで十分なんです」
手のひらいっぱいのどんぐりを見て満足そうに言ってのけた。
愛しくて、大好きで、いつまでも見ていたいと願うような笑顔で。
「あ、そろそろ行かないと……。遅いって沖田さん、拗ねちゃうから」
言葉とは裏腹にふふふと彼女は微笑んだ。
失礼します、と言って総司のもとへと向かう彼女の後ろ姿を俺はただ見送るしかできなかった。
しょうがない。あんな顔見ちゃ、いくら鈍い俺でも『お前の持てねー分は俺が持ってやるよ』なんて言えねえやな。
頭をかきながら視線を下に下げると、ひとつのどんぐりが目に入った。きっと彼女が落としていったのだろう。
おこぼれでもいいから貰っておこうかと、かかんで拾ったそれを、思い直して彼女が向かった方向とは正反対のところに向かって思いっきり投げた。
彼女が幸せそうに笑っているなら俺の出る幕はない。
投げたどんぐりは、平助の頭にあたったとかいないとか。
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